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この物語は北欧神話をモチーフにしましたが
作者の都合上一部、北欧神話とは異なるところがあります。
ご了承ください。

―登場人物紹介
―用語集
―第1章 運命の息子
―第2章 炎の剣レーヴァテイン
―第3章 仲間


―炎の剣レーヴァテイン―


ひょんなことから始まった物語。
今でも信じられない。
僕の母親が神様で、お母さんは世界を滅ぼす力があるなんて。
そして、助け出せるのは僕だけ。

今は木が生い茂る道で灰色の馬に揺られながら、巨人が住む灼熱の国と呼ばれるムスペルヘイム向かうことなった。
ロキの大事な用があるらしいのだが、まだ分からない。

「ロキさん、大事な用って何ですか?」
「あーん?あそこに、俺の剣を預けてるんだよ。レーヴァテインって言う、大事な剣だ」
「レーヴァテイン?ただ剣じゃいけないんですか?」
そう質問すると、どこからかいきなりヨボヨボの声が聞こえた。
「あんた何にも知らないんだねぇ。レーヴァテインはロキ様が作った、炎の剣なんだよ。炎の神、ロキ様の分身のような物だよ」
喋ったのはなんと僕が乗っている馬だった。
「レーヴァテインは俺が作った剣だ。奴ら(アース神族)に対抗するためにはレーヴァテインが必要だ」
ロキが言う。

僕は、ロキの言葉を聞きながらも喋る馬をまじまじ見た。
馬は嘶き、鬱陶しそうに言った。
「何さ、あたいの顔に何かついてるかい?」
「別に、何も無いけど…」
「フン、じゃあこっちなんか見ないで欲しいね。ロキ様の頼みだったから乗せたものの、本当だったら今すぐ蹴落としてやりたいよ」
馬はたてがみを鬱陶しそうに首を振っていた。

「こら、グリ。ケンカすんじゃねぇ」
「ハイハイ、分かりましたよ。創造主。」
グリという名の馬が頭を下げて、うやうやしく言った。
「ったく、口のへらねぇ女だ」
ロキはあきれるように言った。
「グリちゃん、あんまりそういう口をきいてると、婿さんが居なくなるぞー」
ウルズがからかっていった。
「フン、いつも男を殴っているウルズ様には言われたくありませんよ」
「もう、困った子ね!」

しばらく進んでいると、木は少なくなりどこまでも続く草原に出た。
そして、遠くに何か建造物のような物が見えた。
「うわー、広いですね。ロキさん、あれは何ですか?」
「人間が住む町、ミズガルズだ」
段々近くなるにつれて、古代ローマ帝国を思い出させるような建造物が見えてきた。
「人間の住む町って、僕たちが住むところじゃないんですか?」
「厳密に言うと、人間が住む天上の世界ってところかな」
ウルズが言った。
「???」
訳のわからない僕に対して、馬のグルがじれったそうに言った。
「ミズガルズは選ばれた人間の住む所で、あんたみたいな凡人の世界とは格が違うってことよ」
「……あぁ、そう」
ちょっぴりテンションが下がった。
「俺たちは別に食事をとっても取らなくてもいいが、お前はメシいるだろ?グリも」
「お腹が減ったなぁ。そういえば、この世界に来てから、口にしたのはウルズさんの紅茶だけだ」
人間の町、ミズガルズが近づいてくるにつれ、その豪華さが目に見えてきた。
すべての建物に細かい模様が彫ってあり、人々の優雅さも僕たちの世界とは月とスッポンだ。
人々はみな笑顔を絶やしておらず、商人があちこちで客を呼ぶ。
露店もあり、そこには見たこともないフルーツもあれば、スターフルーツのようなフルーツもあった。
「うわぁ、すごい豪華ですね。選ばれた人々の住むところって言うのもうなずけますね」
周りをきょろきょろしていると、どんどん進んで行き、表の豪華な通りを過ぎ細い路地を抜け一面ごみと悪臭が散らばる道になってきた。
「やっぱり、人間は建前だけね。勇気も努力もしない汚い生物」
グリがなにか悲しそうな顔をし、いつもの元気は無かった。
「降りろ、飯を食うぞ」
いつの間にか止まっており、そこは今にも崩れそうな酒場だった。
ロキは馬を馬小屋に止め、酒場に入っていった。
中は思った通り寂れており、客は僕たちと酔いつぶれた酔っ払いだけだ。
「ここで食べるんですか?」
ヒソヒソとウルズに言った。
「ええそうよ。あなた何食べる?」
「もっと他にいい所あるじゃないですかー」
「別にいいじゃない。ご飯食べれればいいことだし」
「うー……」
どうやら神にはどこで食べようが食べまいが関係ないらしい。
こっちは大問題っていうのに…
すると、店の主人がにこやかな笑顔を振りまいてやってきて、訳の分からない言葉を話しながら、僕をボロッちい椅子に座らせ、テーブルにさまざまな料理を置いてきた。
「え、こんなにもたのんだ覚えは…」
「さっさと食べろよ。さっき、店の主人に1000クローネ(日本円で約19,000円)渡したら、好きなだけ食べてくださいってさ」
ロキが椅子に座り、早く食べるようせかす。
料理が次々と並べられていき、それはとてもおいしそうに見えた。
「こんなにも食べれませんよ…。ロキさんも食べてくださいよ」
「ばーか、俺は食べなくてもいいんだよ」
「別にいいじゃないですか。まさか…食べなくてもいいじゃなくて、食べられないんじゃ……」
「なっ、んっなわけねーだろっ。よーし食べてやるよ。食べりゃいいんだろ!」
ナイフとフォークを手にし、目の前にあるこの地では定番主菜メニュー"マグロと海老のサラダ仕立て"を睨みつける。
「ロキ、無理しないほうがいいよ」
ウルズがそっと言うが、一度言ったことを男が、しかも神が曲げれるはずが無かった。
「う、うるせーよ。気が散るだろうがっ」
再び睨みつけるが、額には汗が溜まっていた。
「…何で食べないんですか?」
ウルズの耳にヒソヒソと言う。
「…ロキはね、生まれてから一度も人間が作った食べ物を、食べたことも見たことも無いのよ。もともと、食べる必要が無かったし、食べようとも思わないしね」
「そうなんですか…悪いことしちゃったかなぁ」
「いいわよ、いい機会だわ」
くすくすと、ウルズは笑う。
一方、ロキは相変わらずサラダとにらめっこをしていた。
そして、決心がついたのか一気にかぶりついた。
…ガブッッ……モグモグ……ゴクッ
「ど、どうでした?お味は」
「ふっ、たいした敵じゃなかったぜ…ぐふぁ」
そういうとロキは倒れた。
「ロキさ――ん!?」
「あーあ、やっぱり口に合わなかったみたいね」
「笑い事じゃないですよ!」

ロキは2階にある寝室に運ばれ、僕たちはそのまま食事を食べることにした。
「ウルズさんは食べれるんですか?」
ウルズは器用にナイフとフォークを使い魚肉ステーキを食べていた。
「まぁね、私も食べる必要は無いんだけど、人間の料理は好きよ」
「変わってますね」
アキたちがくつろいでいる、その刹那。
「オーヤージー!金くれー」
どたどたと騒がしい音で上の階から降りてきたのは、ヒスイ色をした髪にバンダナを巻いた15ぐらいの少年だった。
「お客様がいるだろーが!静かにしろこの悪ガキ!すいません。こいつは住み込みのバイトでして…」
少年は降りてくると、ウルズを一目見て。
「ヒュー、こんな寂れた酒場にも綺麗なおねぇさんがまだ来るんだねぇ」
少年はいきなりウルズの手を取り、口説き始めた。
「俺の名前はシグルズ。綺麗なおねぇさん、お名前は?」
ウルズはちょっと困ったように。
「やだぁ、綺麗なおねぇさんだなんて!私の名前はウルズよ」
「そんなこと無いよウルズちゃん、一目見たとき、てっきり女神様が来たのかと思ったよ」
((でも本当に女神なんだけどね。それにちゃん付けって…))
ウルズはそう思いながらも、シグルズの口説きを聞き続けていた。
「こんな廃れた酒場は後にして、ね。」
「でも…、ツレが倒れてて」
シグルズは諦めようともせず、さらに顔を近づけて口説き始めた。
「なぁ、そいつが起きるまででもいい。僕と秘密の場所に行かないか?」
「うーん、お断りしとくわ。アキちゃんを独りにしとくわけにもいかないから」
シグルズはウルズの手を離し、アキの顔をじろじろと見た。
「ふーん、いいか、お前には負けないからな。ま、その顔じゃ俺に勝つなんて百年かかるけどな」
と、その時、上からロキが降りてきた。
「う゛ー、頭痛い…。なんで人間の食べ物はこんなにも濃いんだろ」
「あ、ロキ!回復するの遅かったわね」
ウルズがからかうように言うと、ロキはすねたようだった。
「どうする?もういく?」
ウルズがロキに聞くと、ロキは「おう」と応えた。
「こういうことだから…。ごめんね」
ウルズがシグルズに言うと、シグルズは酒場を飛び出していってしまった。
「なんだあいつ…」
ロキが、そういった。
酒場の主人から食料を買い、旅に必要な物を表の露店で買った。
「よし…、もう買いたい物ない?」
ウルズがみなに聞く。
「特にねぇな、食いもんは旅業者の奴から買えばいいし」
僕も特に無かった。
そして、ミズガルズの門をくぐろうとしたその刹那。
「おい、待ってくれ!」
その声の持ち主はシグルズだった。
遠くから走ってきたのか、顔は汗が出ていた。
そして、その手には2メートルをこす長剣を握っていた。
「この剣は、親父の形見だ!この剣にかけて邪魔はしない、だから俺も連れてってくれ!」
僕らは顔を見合わせ、ロキが言った。
「この旅はお遊びじゃない、命を懸けた旅になる。この街にも帰って来れないかもしれない。それでもついてくなら好きにしろ」
こうして、僕らの旅にまた新たな仲間が加わった。
「よろしくね、シグルズ」
ウルズが微笑みながらシグルズに言う。
「……お、おぅ」
((どうやら俺はこの人に本気(マジ)になってしまったらしい))


新たな仲間を加え、旅は続く。
僕は周りの風景が少しずつ変わるのに気が付いた。
木々が多く生え青々としてた森から、進むにつれ段々木々が少なくなっていったのだ。
僕は相変わらずグリの上に乗り、シグルズはグラニという馬に乗っていた。
そして、前を行くロキとウルズをよそに僕らはおしゃべりに夢中だった。
シグルズの言うことによると、グルニはあのスレイプニルの子孫だという。
シグルズは根は良い奴だった。
ただ、自分の父親が英雄シグムンドということで、ちょっと高飛車なだけ。
「俺の親父はあの主神オーディンの末裔といわれるシグムンドなんだ。ま、だから俺も神の血を引いてるってわけ。この長剣はグラムって言って…」
((うーん、本当のことを言ったほうがいいのかなぁ))
僕はひとり考えながらシグルズのいうことを聞いていた。
「おい、アキ聞いてんのかよ」
僕ははっとした。
「あぁ、うん。それで?」
シグルズがまた話しを続ける。
「でさぁ、お前はなんでなん?アキみたいな子供がさ、大人でも過酷な旅に行くって」
「えっ…、えーっと。僕は、母親に会いに行くんです。遥か遠くの国、ずっと遠くの国にもう死んでいると思ってた母親が生きてたんです。」
「ふーん、そうなん。でさぁ、なんであのガラが悪そうな男とあんな可愛いウルズちゃんと一緒にいるわけ?」
「えっ…あ、まぁ。……シグルズちょっといいかな?」
「うん?なんだ?」
そこで、僕はすべてのことを話した。
「…って言うことなんだ。ロキとウルズは神様で、簡単に言うと、世界の崩壊を防ぐために僕らは旅をしてるんだ」
シグルズは目を丸くし、再び前を行く2人を見た。
「えっ、そんな…」
思った通り、シグルズは混乱していた。
しかし、次に出た言葉には驚いた。
「そっか、じゃあそのフレイアっていう女神さんを助ければ、俺も英雄の一人になれるんだな!早く言えよな。よっしゃー、俺ってついてるー」
今度は僕が目を丸くした。
シグルズは大きく笑い、恐怖心よりも好奇心が勝っているようだった。
そう話しているうちに、周りの風景が一気に変わったことに僕は気付かなかった。
「お前ら、これを着とけ、一気に暑くなるぞ」
「ここからはムスペルヘイムの領地になるからね」
そういって差し出されたのは、何十もの布が合わさって作られた、熱を遮断する魔法のコートだった。
「だっせー。センス最悪…」
シグルズが文句をグチグチ言っていたが、確かに息苦しく、暑くなってきていたのでブーブー言いながらも着ていた。
いつの間にか周りの木はなくなっており、砂漠と大地の割れ目から噴き出す炎だけになっていた。

しばらくし、灼熱の道を進んでいくと砂と何かで作られた国が見えてきた。
「あそこだ、ムスペルヘイム、通称巨人が住む灼熱の国。国を治める王はスルト。んで、スルトの女のシンモラっていう女にレーヴァテインを預けたんだ」
ロキの顔は何処かワクワクしているようで、そして、何処か寂しそうな顔もしていた。
それもそのはず、ムスペルヘイムはロキの生まれ故郷。
そして、ロキは巨人族だったのだ。
半分は神の血、半分は巨人の血であり、敵である主神オーディンに認められ神の一員になったのだ。
つまり、巨人族にとってロキは裏切り者。
その懐かしい灼熱の国の門の前に行くと、まるでわかっていたように門がひとりでに開きだした。
「お帰りなさいませ、ロキ様」
門の向こうには綺麗な女の人が立っていた。
手には真紅の鞘に収まっている剣を持っていた。
ロキは馬から降り、歩いていった。
「シンモラ…」
「お久しぶりでございます。ロキ様が来ることを主人共々待ち遠しくしておりました」
シンモラという女性は顔にベールをし、踊り子のような格好をしていた。
そして、シンモラは砂漠に咲く花のようだった。
しかし、ベールの隙間から覗く瞳は力強く、何者も気軽によりつけない雰囲気を出していた。
「スルトは…、奴は元気にしているか?」
「主人は今、傷を負っています。オーディンとの戦いで」
「そうか…」
そうぎこちない会話が続くなか、ウルズはある音に気が付いた。
「…アキちゃん何か聞こえない?地響きみたいな…」
「何も聞こえませんよ。空耳じゃないんですか?」
「そうだといいけど…」
そう話していると、音はどんどん大きくなっていた。
一方、シンモラはロキに耳打ちをしていた。
「炎は道を照らす光、炎は真実、炎の剣は…」
と、その刹那!
ゴォォォォォォォォッ!!
ロキとシンモラの周りに炎の渦が巻き起こり、2人を包んでいった。

………………ポタ、ポタ、ポタ
水滴が顔に当たる。
冷たい…
地上とは違って、冷ややかな地面が何処か嘘を感じた。
「ここは?」
ロキが目覚めると、そこは水晶が無数に繁殖する洞窟だった。
そして、大きな傷を負った巨人がいた。
「スルト…。こんなところにいたのか」
「……」
「久しぶりだな。俺が裏切って以来か…」
「………」
「何故、ここに呼んだ?」
「…………」
スルトは無言のまま、手に持っていた真紅の鞘に包まれた剣を差し出した。
「レーヴァテイン…。お前が守ってくれたのか…」
ロキはレーヴァテインを受け取ると、鞘から取り出した。
その刀身は薄い紅の色で、見るもの全てを引き込むようであった。
柄には4つの穴があり、1つは赤い石がはめられ、後の3つは何も無かった。
「…すまない…石…敵へと…渡った」
スルトはかすれるような声で言った。
「いいさ。石は本来あるべきところに戻ろうとするからな」
「俺が…出来るのは…ここまで」
「俺はこの場所にきただけでうれしかった」
ここは昔ロキとスルトが遊んだ思い出の場所だった。
そう、まだ世の中を知らなかったころ、純粋に世の中を楽しんでいた頃だった。
「ありがとう」
ロキがそういうとまわりに炎が包み、地上へと戻っていた。

ロキは炎に包まれ、現れた。
「ロキさん!大丈夫ですか!?」
僕がそういうと、ロキはいつものおちゃらけた笑顔ではなく、寂しそうな笑顔で答えた。
「ああ、ただ、俺の居場所は無くなったよ」
「あ、あれ見ろよ!国が沈んでいく!?」
シグルズが指差す先には王国が地の底へと沈んでいく様子であった。
「何があったんですか?」
「王、スルトの睡眠だ。しばらくムスペルヘイムは地へと沈み、時を待つだろう」
僕には何がなんだか分らなかった。
しかし、このことが後々あんなことになるなんて、僕たちはまだ知らない。

Live well. It is greatest revenge.
〔立派な生き方をせよ。それが最大の復讐だ〕
―The Talmud(「タルムード」)



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